グリンダムの王族
セシルの婚儀の日が近づき、カインのファラントへの出発が明日に迫ったある夜、彼は久しぶりにリズの部屋を訪れていた。
けれども例によって出迎えたのはリズではなかった。

侍女に「リズ様はまだお戻りになっておりません」と伝えられ、カインはやれやれとため息をついた。

「俺が来るって伝えたのか?」

毎回空振りなので、今日は事前に伝えておいたはずなのだが。
カインの質問に、侍女は明らかに狼狽していた。

「お伝えしました!
先ほどもお呼びしに参ったのですが、
”すぐに戻ります”とおっしゃられて、、、」

カインは苦笑しつつ、「どうせ忘れてるんだろうな」と独り言のように言いながらリズの部屋に入った。

「待たせてもらう。
お前はさがっていい」

彼の言葉に侍女はほっとしたような顔になった。
そして頭を下げて退出する。

カインはため息をつくと、部屋の中へと進んでいった。



その頃、リズは厨房の作業机に向かい、夢中でパン生地をこねていた。

厨房で仕事をしつつ皆となじんだリズは、最近当初の希望通り空いた時間でパン作りをするようになった。
ララも隣でリズに教わりながら一緒に作っている。
リズは生地を器に入れると、布をかぶせた。

「これで寝かせておいて」

リズがそう言うと、ララが「はい」と答える。
リズはにっこり微笑んだ。
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