グリンダムの王族
ファラントでの婚儀が終って数日後の夕刻、カインはグリンダムに帰国した。
城に戻ったカインは、到着してすぐにラルフのもとへと向かった。
彼は執務室で仕事中だった。手を止め頬杖をつき、弟の報告を聞く。
「婚儀は無事完了した。でも前途多難だぜ。
クリス王子はセシルにも俺にも噛み付きそうな勢いだった」
ラルフはその言葉にふっと笑みを浮かべた。
「まぁ、しばらく様子を見る。
あの王子が王位を継ぐのは当分先になりそうだしな。
そうなってからじゃないと、操縦する価値もない」
カインは「なるほど」と言って苦笑した。
そして何気ない調子で問いかける。
「俺が留守の間、何もなかった?」
ラルフは少しの間記憶を手繰るように視線を宙に向けたが、すぐに「べつに何も」と返す。
「そっか。じゃぁ、俺今日はもう休んでいい?」
「あぁ、そうしてくれ」
ラルフの答えを聞き、カインは「それじゃ」と言うと執務室を出て行った。
その後カインは自分の部屋へ戻った。
今日はもうやることはない。
着替えを手伝おうと寄ってきた侍女に声をかけた。
「今夜会いに行くと妃に伝えてきてくれ。
今頃たぶん厨房に居る」
侍女は「かしこまりました」と応え、早速伝言を届けに出て行った。
しかし、その後カインは侍女からの報告で、リズが厨房ではなく自室に居ることを聞いた。
今日はパンを焼いていないらしい。
毎日のように行っていたのに、どうしたのだろう。
特に体調が悪いということもないようだった。
それなら夜まで待つ必要もない。
着替えを終えたカインは、リズの部屋へと向かった。