グリンダムの王族

今夜カインが部屋に来るという知らせに、1人篭っていたリズは慌てて寝台を出た。

侍女を前に「でもファラントに行かれてるはずじゃ、、、」と問いかける。

侍女はにっこり微笑んで「先ほどお戻りになられたようです」と言った。

カインが帰ってきた。
懐かしい名前。その響きだけで、先ほどまでとは違う涙が出そうになる。

「わ、私、着替えないと、、、」

「はい。お手伝いいたします」

おろおろするリズのために侍女はすぐに着替えを用意しに行ってくれた。

寝室を出て続き部屋へと去っていく侍女を見送り、リズは突っ立ったまま待っていた。
そうしながら考える。

カインはラルフと話をしたのだろうか。
あの日のことを聞いてしまっただろうか。
そしてもう自分を手放すことを決めてしまっただろうか。

そうされても仕方がないほどに、自分は沢山我侭を言って彼を困らせた。
そんな不安と後悔が波のように押し寄せて、また体が震える。

ふと続き部屋から人が入ってきたのが見えて、リズは我に返った。
そしてその目を見開く。

クセの無いブラウンの髪、優しい緑色の瞳。
その目がリズを見つけて微笑みを浮かべる。
目の前に現れたのは侍女ではなかった。

懐かしい、カインその人だった。

「ただいま」

涙が出そうになって、リズは歯を食いしばって堪えた。
そんなリズを見て、カインの表情に戸惑いが見える。
声が出せない。ちゃんと笑顔で迎えたかったのに。

「さっき帰ったんだけど、、、」

リズは「お疲れ様でした、、、」とやっと声を絞り出した。声が震えるのを止められない。

「どうした、、、?」

カインが不思議そうに問いかける。

リズはなんでもないというように首を振った。
体の震えを必死で抑えながら。

そんなリズを見ながら、カインはそっと手を延ばしてリズの髪に触れた。

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