グリンダムの王族
カインは顔をしかめた。

「なんだよ」

「たいした話じゃない」

ラルフは軽い調子でそう応えた。

「お前がファラントに行っている間にアーノルドが遊びにきたんだ。
リズを侍女だと思って、手篭めにしようとした」

ラルフの話にカインは目を見開いた。
ラルフはそんな弟の反応には構わず、話を続けた。

「俺がたまたま通りかかって止めたけど、名残惜しそうだったぞ。
お前から譲ってもらおうかと言っていた。
まぁ、本気じゃないと思うけどな」

そう言ってちらりと弟を見る。カインは目を見開いたまま、「譲るわけない、、、」と言った。

カインの頭にあの日のリズの言葉が蘇る。

”もう他の人のところへは行きたくないです。
カイン様以外の人は、、、いやです、、、”

「そういうことか、、、」

カインの顔が急激に険しくなる。「、、、アーノルドの野郎」

その目に怒りを滲ませながら、独り言のように呟いた。

あの日まるで何かに怯えるように、リズが震えていたのを思い出す。
彼女はあの後1人で居館を出て厨房へ行くことを一切しなくなった。
不思議に思っていたが、その理由も分かった。
その日の恐怖をまだ引きずっているのだろう。

そしてそれでも、自分のことを受け入れてくれた―――。

ラルフはそんなカインを見ながら、いつもと変わらぬ口調で言った。

「”譲るわけない”と思うな。
正妃ならいざしらず、側室だぞ。
得るものがあるなら喜んで譲る」

カインは目を見開いて兄を見る。

「俺の側室だぜ?」

「、、、そうだな」

ラルフの切れ長の鋭い目をカインを見ている。

「そして俺はこの国の王だ」
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