グリンダムの王族
晩餐会の途中、セシルは席を立った。
そのままなかなか戻ってこない。
クリスはぽっかり開いたとなりの席をしばらく見ていたが、やがてすっと席を立った。

そして部屋の出口に居る見張りに、「妃を見なかったか?」と聞いた。

見張りの男が、「あちらに、、、」と言いながら手の平で指す。

廊下の途中に外につながる出口が見える。
その向こうにはバルコニーがあるはずだった。

クリスはその出口へと歩いた。
そして出口から外を見る。
セシルはバルコニーの先端で、もたれるようにして外を見ていた。

その背中は、なんだか寂しそうに見えた。

クリスはゆっくりセシルに近づいた。
石畳のバルコニーに足音が響く。

セシルがハッとしたように振り返った。

泣いているのかと思ったけど、泣いてはいなかった。
まさか来るとは思わなかったのだろう。
セシルは不思議そうにクリスを見ている。
クリスはセシルの隣に立った。

「、、、なにしてんの」

「、、、少し、酔いをさましてるの」

セシルが答える。
そうして醒まさなければならないほど、酔っていたようにも見えなかった。

「俺の隣に居るのが、嫌だったんだろ」

クリスの言葉にセシルは少し間をおくと、

「別に、あなたの存在はどうでもいいけど、、、」

と言った。

その言葉にクリスの胸がズキンと痛んだ。
夜の空気が優しく体を包む。
木の葉が擦れ合う音が響く。
それを聞きながら、クリスはしばらく黙って俯いていた。

その場から離れることもできずに―――。

「セシル、、、」

クリスに名前を呼ばれたことに驚いて、セシルはクリスを見た。

彼は自分を見ていない。目を伏せたまま、小さく囁いた。

「、、、子供つくろうか」

あまりにも予想外の言葉に、セシルは目を丸くして固まった。
とっさになんと答えていいか分からずに、瞬きを繰り返す。

「作らないと、いけないんだろ」

クリスが重ねて言った。

セシルは呆然としつつ、「まぁ、、、そうかな」と返した。
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