グリンダムの王族
「、、、どうしたの?急に、、、」

「別に、、、。なんとなく」

クリスの返事は、答えになっていなかった。
”俺の子供は産ませない”じゃ、なかったっけ?と思ったりする。

いまさら作ろうかと言われても、正直セシルは”だったら最初からそうしておいてくれりゃよかったのに”という気分だった。

結婚した当初のほうが、まだ覚悟ができていた。

でも確かにこのままずっと子供を作らないでいるわけにもいかない。
クリスも自分の運命を受け入れたということなのだろうか。

セシルはそんな彼の変化を喜ぶ気にはなれなかった。
セシルはクリスから目を逸らすと、再び夜の景色を見た。

「どうぞ、好きにして」

またなげやりなことを言ってしまう。

不意にクリスの手がセシルの両肩を掴んだ。
そしてその体を自分に向かせる。

突然のことで、セシルはまた驚いて目を丸くした。
クリスの真剣な目が自分を見ている。
その顔がゆっくりと近づいてきた。

「―――ちょっと待って!」

セシルは思わず彼の顔を手の平を広げて止めた。
クリスの動きが止まる。それでも彼の手が離れる気配は無い。
セシルは思わず問いかけた。

「今ここで、じゃないわよね?」

クリスはムッとしたように、顔をしかめた。

「そんなわけないだろ。
キスしようとしただけだ」

セシルはその言葉に不思議顔で、「キスする必要あるの?」と聞いた。

クリスの目がセシルを見つめている。
少しの間をおいて、彼は静かに口を開いた。

「、、、キスしたい」

セシルは目を丸くした。

「ちょっと待って、、、。
どういうこと、、、??」

クリスは自分の顔の前に出されたセシルの手を握ってどかした。
そして彼女の肩に腕を回して抱き寄せた。

乱暴に唇を押し当てられて、セシルは驚いて固まった。
クリスの腕がしっかりとセシルを抱きしめている。
目を閉じたクリスの長い睫が目の前に見える。
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