グリンダムの王族
その後、グリンダム王国の要請通り、セシルは一時里帰りすることとなった。

数日後、ファラントの王子と王子妃は馬車に乗ってグリンダム王国への道を進んでいた。
懐かしいグリンダムへ戻れる。少しの間であっても、それはセシルにとって幸せなことだった。

ラルフの病気は気にかかるが、セシルの中ではどうしてもそれが自分を呼び寄せる口実のような気がして仕方が無かった。

隣のクリスが居なければもっと良かったけど、そうしたら二度と戻りたくなくなりそうで怖い。

クリスはいつもの通り、時折セシルをじっと見ている。
セシルは気づかないフリをして前を向いている。

「セシル、、、」

クリスがいつものように近づいてきた。

「、、、やめて。
そんな気分じゃないから」

顔を背けて冷たく返す。
一応兄が病気だという状況なのに、この能天気王子は何を考えているのやら。

「セシルがそんな気分の時なんて無いくせに、、、」

よく分かってるじゃないと思いつつ、クリスを見た。目が合ったのを合図にするように抱きついてきた。

「クリス!!」

咎める声は彼には届かない。有無を言わさず唇を押し付ける。
いつもの身勝手なキスだった。
唇が離れると、セシルはクリスの胸を押しながら「分かった」と言った。
クリスの動きが止まる。セシルはクリスを真っ直ぐ見据えた。

「あなたに”好き”って言われても、全く心に響かないわけが分かったわ」
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