グリンダムの王族
ファラントの宰相も、グリンダムの大臣達も、そしてカインとセシルも、全く目の前の状況が理解できなかった。
ただラルフの行動が、クリス王子になにかしらの衝撃を与えているということだけは理解できた。

クリスは顔色を変え、ただラルフを見ている。
ラルフはそんなクリスを見ながら、口を開いた。

「クリス王子。
こちらは昨夜私の後宮に迎えた、新しい妃です。
どうぞお見知りおきください」

ラルフはリズの体を支えながら、彼女の亜麻色の髪にキスをした。

「、、、あまりに気に入ってしまって、離し難くて連れて来てしまいました。
申し訳ない」

そう言ってクリスを見ると、その口元に笑みを浮かべた。

リズは何も言えずにただ立っているのが精一杯だった。
激しい眩暈が続いている。
何が起きているのか、さっぱり分からなかった。

カインはセシルに、「誰だ、あれ」と聞いた。
セシルは激しく首を振る。”知らない”という意思表示だ。

宰相は不思議顔でクリスを見ていた。
クリスがその場の全員の視線に、ハッとしたように我に返った。
そしてラルフにまた目を戻す。

「、、、卑怯だ」

思わず呟いた。宰相がその言葉に驚いて王子を見る。

クリスはラルフの行動の意味を理解した。
自分の行動はこの男に筒抜けだったのだ。
そんな自分の迂闊さにも腹が立ったが、
なによりも目の前の王のやり方が許せなかった。

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