グリンダムの王族
「パンを、、、焼きたいです」

カインはその意外な言葉に目をパチクリさせた。そして、「パン?」と聞いた。
リズはこっくり頷いた。

「平民の頃、街のパン屋でお仕事してました。
パンを焼くのがとっても楽しかったんです。
最近上手になってきたので、なおさら、、、」

そして目を伏せると、「また焼きたいです、、、」と呟いた。

懐かしい仕事場を思い出す。言いながら、胸が苦しくなる。もう、戻れない場所―――。
カインの目がじっとリズを見ている。そしてゆっくり微笑んだ。

「分かった、、、」

カインの返事になぜか胸が熱くなった。本当に我侭を言ってしまった。
しかもそれを聞き入れてもらえた。
それだけで、不思議な安堵感に包まれる。

「じゃぁ、俺も我侭言おうかな」

不意にカインが言った。
リズは何も言わずにカインを見ている。
カインはその視線を受け止めながら、ふっと微笑んだ。

「、、、俺を受け入れて」

その言葉に、リズの胸が大きな音を立てた。
その音が体中に鳴り響く。
リズは何も言えずにカインを見ていた。

カインはそんなリズに苦笑すると、「少しずつでいいからさ、、、」と言ってゆっくり起き上がった。
< 91 / 265 >

この作品をシェア

pagetop