雨×飴
ボロアパートの階段を
降りようとすると
背後から声が響いた。
「お、天宮サンじゃん…。」
あまみや…
あたしの名字を
呼ばれてると自覚するのに
少し時間がかかった。
ゆっくり後ろを振り返ると
そこには
千石 晴途<センゴク ハルト>…
同じクラスで
同じボロアパート
まさかの同じ階で
隣の一室の住民。
何かと腐れ縁。
髪の毛は、ワックスで
無造作に整えられていて、
派手に染め上げられた
黒 金のメッシュには
悔しくも艶があって。
着崩された夏用の制服
首もとの鎖骨がまた
色気を出している。
部類するなら間違いなく
″イケメン″に相当する。
「相変わらず遅刻?」
悪魔の様に微笑む少年。
「アンタこそ。」
負けじと笑顔で言い返す。
「ちょっといーかい?」
千石はそう言うといきなり
あたしの首筋に手を伸ばしてきた。
第2ボタンを閉められた…
「何?」
素朴な疑問を二文字で問うと
自分の首筋に手を当てて
「キスマーク、見えてるし。」
と悪戯っぽく呟いた。
アタシは頬が
カッと火照っていくのが
自覚できた。
「あとねー、夜中。
誰かさんの喘ぎ声と
泣き声が聞こえるんだけど」
「………えっ。」
あたしは血の気が
静かに引いていくのが
分かった。
「…マジ?」
何かの間違いだと
些細な希望を持って聞き返すと
うん。という簡単な返答で
ソレはすぐに打ち砕かれた。
恥ずかしくて、
言い訳を考えるなんて選択肢は
この状況では
思いつきもしなかった。
したところで
無駄なのは確実なんだけど。