短編集『固茹玉子』
 あくまで客として尊大な態度を取りながら、『こっちは客なんだ。柔らかい感じのDVDを借りて何が悪いオーラ』を噴出させ、店員がそれに気圧され目を反らす事で、『日曜に来る名作比率10%のAVマニア』のレッテルが貼られる事を願わくば避けたい、という俺の目論見が叶わなかったその現実。

 新作棚の前に並び仲良く作品を選んでいる、笑ってしまいそうに不細工なカップルも。中古DVDのワゴンを端から丹念に吟味している、少し背広のくたびれた中年サラリーマンも。子供そっちのけでしゃがんだまま作品を探していて、今にも割れ目が見えそうなローライズのデニムをはいたヤンママも。きっと耳の穴をこれでもかとかっぽじって、視界の一番端で俺を捉えながら俺と女の子がこれから繰り広げるであろう攻防、その一挙手一投足を見逃さない為に神経を研ぎ澄ませているに違いない。

 心なしか、このフロアーに居る客と従業員全ての視線が一身に集められたような、ジリジリと焦げてしまう程の心地悪さを感じる。

 更に追い討ちを掛けるように、

「お客様、これはわたくしがお戻し致しますので」

 と、呆気なくカウンターの向こうに置かれてしまった物。

柔らかい作品群と、その上に乗せられた1枚の色褪せた名作で形作られた、俺の欲望と姑息な戦略を如実に表す塊。

それが目の前で眩しい程の笑顔を見せる彼女の白く美しい手によって、怪しげな暖簾(ノレン)の向こう側に有る、極彩色で飾られた棚に1枚1枚戻されるであろう近未来。


< 75 / 93 >

この作品をシェア

pagetop