涙が出ない【短編】
「里奈が死んでも涙が出ない。
ハナが死んでも涙が出ない。
じゃあ誰が死んだら
私は涙が出るのかな」
感情を感じられない言葉だった。
私自身、こんな質問をおじいちゃんにするなんておかしいと思った。
でもおじいちゃんは窓から見えるその夕方の空を見ながらゆっくりと口を開いた。
「誰がじゃない。お前が受け入れられないだけなんだよ……人の死を」
何かが私の心を壊した。そんな感じがした。
「"死"というものが分からないだけだ。いなくなるってことが信じられないだけだ。おかしいことじゃないさ。ただ里奈もハナもまた帰ってくるって、お前は信じてるんだろう?」