真夜中の向日葵
【海に浮かぶ檸檬】
ふよふよとした波間に意識が漂っている。


泡が弾ける。

波が立つ。


たぷん、たぷんと静かな波音を感じる。


ゆらゆらと波間を漂っていた渚の耳に、ぱたん、と扉の閉まるような音が聞こえた。


薄目を開けると、いつも通りの自分の部屋があった。

沈みかけの太陽が室内に薄墨にも似た橙色の影を落としている。


時計を見ようと起き上がって、隣に晶がいないことに気付いた。


あぁ、さっきの音は晶が出ていった時のか、と納得する。



ベッドから起き上がって裸のまま台所へ向かった。


素足にタイルの感触がつめたい。


冷蔵庫を開いてボトルに残り半分ほどになったレモン水を飲む。


レモンの香りの水、という謳い文句に誘われて買ってはみたものの、レモンなのは本当に香りだけで味は水以外の何物でもなく裏切られたような気分だった。



つめたい水が喉を通過していく。


水と一緒にいやらしい自分もどこかに流れていくような気がして少しほっとした。



空になったペットボトルとともに部屋に戻ると、視界の隅で何か動いた気がした。

カーテンを細く開けてみる。


と、帰っていく晶の後ろ姿が目に入った。

くたびれた学ランが一瞬翻って、見えなくなる。


急に晶の言葉が思い出された。



――幼なじみだっけ?―――



自然と首筋に手が行く。


晶はこの痕に気づいていたんだろうか。

抱いた女の首筋に見覚えのないキスマークがついていたことに。


きっと気づいていたんだろうな。

ぼんやりと思った。


気づいていたけれど何も言わなかったんだろうな。

晶は決して深く踏み込んではこないから。


一昨日の夜だっただろうか。

唇の感触がまだ消えない。




「――…幼なじみ じゃあ ないんだけどね――……」


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