伽羅子
無我夢中だった。

皮膚を切る感触も、肉を貫く感触も、気にならないほどに無我夢中だった。

…我に返ると、目の前には伽羅子が横たわっていた。

全身にパックリと開いた傷口。

切り傷、刺し傷の区別なく、ざっと二十は超えるだろう。

まさしく滅多切り、滅多刺し。

あまりにも凄惨な、目を覆わんばかりの姿だった。

自らの手で行った所業でありながら、俺は思わず顔を背ける。

…伽羅子は床に転がったまま、ピクリとも動かない。

喉を掻き切っている。

致命傷と呼ぶには十分すぎる傷だった。



< 31 / 55 >

この作品をシェア

pagetop