ペアリングを外して

 行き交う人々は涼しい顔をして俺の前を通り過ぎていく。

 東京にはこれだけの人がいるんだ。

 こんな悪い男なんて忘れて、もっといいヤツを探せばいい。

「今日、仕事だっていうの嘘なんだ」

「え?」

「女と会ってた」

「……それって……あの人?」

「湯本じゃないよ」

 疑いが晴れたばっかりの久美にとっては衝撃も強いだろう。

 怒鳴られたっていい、罵倒されたっていい。

「そんな……うそ……どうして……」

 ただ、そんな風に泣いて欲しくなかった。

 俺だって泣きそうになる。

 自分の選んだ道を、後悔してしまいそうになる。

「ごめん。本当に、ごめん」

「嘘だよ、そんなの。なんでそんな嘘つくの?」

 泣き声で、でも力強く否定する。

 ここで再びバラエティの笑い声がして、何ともいえない気持ちになった。

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