探偵バトラー ~英国紳士と執事~
「ミスター・ジン。君は何か勘違いをしていないかね? 伝導こけしは君が想像しているようないかがわしい代物ではないよ。はやる気持ちは解るが、心の余裕をきちんと持ち、最後まで話を聞くべきだ」

「陣よ。今日のそなたはなぜそんなに怒りっぽいのだ? カルシウムが不足しているなら煮干しを食べると良いぞ」


 オレのまっとうな抗議はまたしても受け流されてしまった。おまけに絵理からもたしなめられる始末。

「彼が興奮する気持ちも解らなくはないがね。若い頃は何かと欲求不満になりやすい。ついよこしまな想像をしてしまうのも無理からぬ事だ」

 諭すようにそう言うと、ロシュツ卿はオレに同情のこもった視線を送った。

 絵理はそんなロシュツ卿の言葉を受けて、オレを心配そうにじっと見つめた。


「陣……。煩悩は人として正しい欲求かもしれないが、やはり時と場所は選ぶべきだと思うのだ。
 先ほどのような普通の会話ですら興奮してしまってはさすがに身が持たぬぞ?」


 え……もしかしてオレ一人変態扱いされてる……?

 誤解だ。というか、さっきの会話といいロシュツ卿の格好といい、完全なセクハラ空間じゃねえか。

 しかし、その手の知識が乏しい絵理にとっては普通の会話にしか聞こえなかったのだろう。ロシュツ卿の格好ですら「趣味は人それぞれ」くらいの認識でしかないのかもしれない。

 知識は時として凶器であり、純粋さは時として残酷なものである。
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