桜の下で ~幕末純愛~
いくら待っても返事がないので、沖田は再度話しかける。

「言葉は解りますか?」

「……………」

言葉って、分かるに決まってんじゃん。

どう見ても純日本人じゃん。

「あの…」

沖田が一歩踏み出した。

うっ、動いたっ!

「こっ…こないでっっ!」

やっと出た言葉は“こないで”だった。

ほんの少し後ずさりする。

「危害を加える訳ではありませんよ」

危害って…じゃあ、何でここにいるのよ。帰ってよ。

「私にも解らないんです。何故、此処にいるのか。まずは、此処が何処なのか教えていただきたいのですが」

はぁ?何言ってんの?いきなり現れといて。

「あ…あの…誰、ですか?」

あっ、声が出た。

絞り出す様な声で聞く。

「あぁ、失礼しました。私は【沖田総司】と言います」

「おき…た…そうじ?」

沖田総司って新撰組の?ヤバイって、歴史マニア?

「はい。あ、貴女のお名前は?教えていただけますか?」

えっ?何で聞くのさ。答えなかったら襲われそうだし…。

「稲葉桜夜です」

聞こえるか、聞こえないか、とても小さな声で答える。

「桜夜さんですか。とても綺麗なお名前ですね」

おだててどうする気よ?強姦!?嫌だっ。

「桜夜さん、此処は何処なのでしょう?」

勝手に来て何だ、それ。

答えないと何をされるか分からないと思い、オドオドと答えた。

「ドコって…私の家ですが」

「あ、いえ、そういう事ではなくてですね」

「あっ。あの…東京都です」

「とうきょうと?それは一体どちらで?」

話がかみあわないよ…

「京までは遠いのでしょうか?」

「京?京都…ですか?」

桜夜は一定の距離を保ちながらまたオドオドと答える。

「あの…かなり遠いですが…」

「そうですか。どの方向へ行けばいいでしょうかね?」

もぉ、勘弁だよ。この人、オカシイ人?

「方向って…新幹線を使わなければ無理ですけど」

「しんかんせん?何です?しんかんせんとは」

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