きみに守られて
『覚醒』
鉛色をした無数のひらひらのれんに、
車が舐められるているかのように
駐車場へ進入し車を降りる。
ソワソワと挙動がおかしいユリツキ。

(ラブホテル・・・だ)

それを横目に、
優里は未曾有の経験に瞳を輝かせていた。

白く豪勢で大げさな扉を開け部屋に入るなり、
視界につく物はすべて触りまくっている。
ベットの枕元にあったスイッチ類を
いじくりライトの明暗が操作できる事を発見し
その場飛びで喜び、
天井の巨大な鏡を見上げすぎて
首が痛くなったといいがかり的に
ユリツキを怒る。

優里の指先にはどこから拾ってきたのか、
子熊の指人形がくっ付いていた。
一番のお気に入りは狭いサウナ室のようで、
懺悔室として使い
ユリツキに神父役をやれと
小芝居までを要求した。

一通り物色も終わり
腕組をして気難しく考えこんだのち

「寝る前にはお風呂!」
と叫び浴室へお湯を貯めに向かった。

浴室から優里は小走りでやってきて
ユリツキの前にペタンと座りこみ、
大きな瞳を右下へきょろっと向け、
考え込み、
同じように左下をきょろと向き、
考えてから、
くずしていた足を正座に直し、
内緒話をするような手と口で、
前のめりになり
ユリツキの耳元近くで

「お湯の出すぎ!!」と、笑った。

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