きみに守られて
少年の頃、
ユリツキはその万華鏡を体でおぼえていた。

バラック建ての今にも崩れそうな家の中で
ペラペラに薄いベニヤ板を
二枚立掛けて仕切られた、
ユリツキの部屋で布団をかぶり、
行けば乞食と罵られる小学校へ
行きたくないと
一人涙を流した夜。
理不尽に物を投げ付ける父、
そんな父と別れられないのは
ユリツキのせいだと泣く母。

貧乏にただ泣いた夜に
ベニヤ板の継ぎ目からこぼれいる光を
涙で溢れた瞼を少しだけ開て見る。
薄目で見ると白銀のような
雪の結晶がゆらゆら見れたのだ。
絶え間無く流れる涙が、
何一つ慰められる物が無い中で
少年ユリツキが発見した、
”涙の万華鏡”であり、
はかない楽しみであった。


ユニットバスの中は
静かな深海の時間の流れだった。
ユリツキはこの時が永遠に続いてほしいと
思っていた。

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