きみに守られて
『暴走』
全国民は
テレビの中の強靱な主人公に
期待して戦いの手口は
連日エスカレートする。

対戦者は武器を持ち
悪辣な手段の者や
巨漢の外国人も増える。
ユリツキの戦いかたは
神業的になり、勝ちつづけた。

スマートに
可憐に
確実に
ユリツキは
対戦者を
葬っていった。

終わることの無い、
群集の後押しと浮かれた拍手の嵐に
たった一人ユリツキは
踊らされていった。



一年以上も残忍な戦場で戦った男は、
英雄視されていたが、
その姿は無機質で無表情、
言葉を忘れ殺気だって、
向かってくる者を潰すという
プログラムに操られた機械であった。

(人前で涙は見せられない・・
見せてはいけないのだ・・)

そしてユリツキは
独りきりの夜に泣いていた。

しゃくりあげる声を殺して
親に気づかれないように
泣く日々があった。

貧乏な理由も探求し
何度も反芻したが
答えなど見つけられる程
すれていない少年時代。

誰かに責任を押し付ける事も
誰かを憎む事も
思い付かずにただ不幸に泣いた時代。

必ずやってくる朝を怖がった。

学校と教室に怯えていた。

意志を捨て、
行動だけをおこす機械に徹することを
小学二年生のユリツキは学んだ。

心の閉ざし方を憶えた。

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