ゆめ・うつつ(さみ短3)
初夏に、箱根三枚橋の戦いで、八郎は左手に切り落とさなければならないほどの重傷を負った。

おまけに、八郎が乗り込んだ蝦夷へ向かう船が、嵐にあって沈んだ。

隻腕の不自由さ、ふがいなさと疲労で、一度は絶望して自ら命を断とうとした八郎を、泣きながら押しとどめてくれたのが、この小太郎だった。

おかげで、こうして横浜で、英語教師の尺先生のもとに潜伏し、蝦夷(北海道)に行ける望みを持っていられることは、感謝している。

本当なら、こうして秋まで生きてはいない運命だった。


だが。


(おいら、おまえにいつまでも心配かけたくないんだ。小太郎)


小太郎はあれ以来心配をしすぎると、八郎自身は思っている。

だから、あんな夢を見たのだろうか。


「どうした?ハチ」
「いや。……楽しい夢を、見た」

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