幾千の夜を越え
「おじさんは知っているのか?
尊はどうなったんだよ?
右近はどうしたんだよ?
真相を教えてくれ!」

勢い任せにおじさんに詰め寄る。

おじさんは嫌な顔もせずに
申し訳なさそうに首を振った。

「左近は…右近が裏切って尊を連れて逃げ出したと思っている。
この書では尊は祭壇に上げてる。矛盾しているのは何故なんだ?」

右手で握り締めた掌を書棚の横に叩き付けた。

大きく揺れた書棚は中の書物を
吐き出し元の位置で止まった。

「右近が尊を連れ出さなければ…村は…尊は…救えたのか?」

何も答えないのは
単に答えを知らないからなのか、或いは無言の肯定なのだろうか。

どちらとも判断のつかない俺は、その憤りをおじさんにぶつける。

「俺が右近の力を呼び覚ませられないのはそのせいなのか?」

おじさんの胸元を掴み上げる。

八つ当たりなのはわかっていた。

「尊を脅かす敵の正体は何だよ!頼むから教えてくれよ…」

何から葵を守れば良いのか…。

何に気を配れば良いのかも…。

今の俺には見当もつかなかった。

過去の過ちは今更仕方ない。

戻ってやり直すことは出来ない。

この際右近の力を諦めても良い。

葵だけは守るそれだけなんだ。

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