幾千の夜を越え
過去の記憶も力も何も持たない、役立たずの俺は何故未だに葵の傍に居られるんだ…。

崩れ落ちる様に膝を付く俺の肩におじさんが手を添える。

「慎輔君大切なのは事実ではなく真実なんだよ…」

事実と真実の何が違うのか…。
どちらも実際の事を指す言葉だ。

その意味が理解出来なかった俺は

「右近様がお取りになった行動は何かしらの理由があるはずだよ。誰にも仰有られずお一人でお背負いになられるのが右近様だった。故に誤解され真実も明かされず」

それがおじさんの慰めなのだろうと思った。

「…右近の印を知ってる?
右近は自分で力を封印したんだ」

或いはおじさん自身が右近を信じたかったのかもしれない。

無意識に呟いていた。

「その場所も封印を解く鍵も…、何もわかってないのは右近が罪の重さに耐えかね自分だけ楽になる為にしたってことの証拠だろ!」

右近は単なる情けない卑怯者だ。

そう誰かにレッテルを貼って欲しかったのかもしれない。

俺自身が右近の呪縛から逃げ出したい負け犬なのかもしれない。

「右近様の封印は本当に右近様の力を封印することが目的だったのだろうか?」

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