金魚玉の壊しかた
「泉進之丞って、うちの親父殿より年上のオッサンじゃねーかよ」

七月に入って、

武家の息女として正式に訪問した結城家の屋敷で、一月ぶりに会った円士郎は彼らしい文句を言って、

庭に降りてきた円士郎と、池を泳ぐ鯉を二人で眺めながら、

「あんたは、それで本当にいいのかよ?」

と訊いた。

やかましい蝉の声を聞きながら、円士郎は手にした扇をパタパタと忙しく動かしていた。


「ああ。それでいい」

「遊水は……あれからあんたの長屋を何度か訪れてたぜ」


ズキンと、胸の奥が鋭く痛んだ。


「おい……! 全然、大丈夫じゃなさそうじゃねェか」


円士郎が扇を動かす手を止めて慌てた声を出して、私は自分の頬を涙が流れていることに気がついた。


「縁談なんざ断って、あのままあの長屋で遊水と過ごす選択肢だってあったんじゃねえのか?」


袖で涙を拭って、私はそう言う円士郎に微笑んで見せた。


「いいや。これが武家に生まれた女としての、私の生きるべき道だ」


円士郎は納得のゆかなそうな顔で、再びパタパタと扇を動かし始めて、


「……だそうだぜ」


庭木の茂みの影に向かって、不機嫌にそう言った。
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