金魚玉の壊しかた
「これは一応、私の本業の仕事の一つでもあるのだ。
亜鳥は──上級の生まれだから、下級武士の家が常に暮らしに喘いでいる実情は知らないか」

「え……?」

「金魚は高級な魚だ。裕福な者相手に高額で売れる。生活が貧窮状態にある武士の家で、副業として育てられないかと思っていてな。
江戸や上方でも売れる品種の固定と、他の者にも容易に殖やせる盆栽法を確立するために、私が屋敷の裏で盆栽しているんだ」


私は驚いて、道楽かという浅薄な質問を口に乗せたことを恥じた。

そんな考えを持って、
政策の一つとして、
伊羽青文が金魚の盆栽をしているなど──


「わ、私はこれまで、家中でそんな噂は聞いたことがないぞ」

「まあ、まだ大っぴらに公表はしていないからな。
家中では、生き物の飼育知識のある鷹匠の役目にある者と、たまに情報を交換している程度だ」


我々の時代のゴルフのような社交スポーツに、鷹狩りというものがある。

鷹匠というのは、殿様がその鷹狩りで使用するタカを管理飼育する役目の者のことで、確かに生き物の飼育に関するハイレベルな知識と技術が必要とされる仕事だった。


「主席家老の仕事とて楽ではないはずだろう? あなた自身が盆栽までする必要があるのか?」


何も知らなかった浅はかさを紛らわせようと、そんな反論をして、

青文は金魚を眺めていた顔を上げて私を振り返り、困ったように笑った。


「亜鳥、金魚は高級な魚だ。最初にかかる投資と盆栽に失敗した時の損失とを考えると、伊羽家のような裕福な家でなければ行えない。
そもそも、危険は言い出した者が率先して請け負うべきだろう」

「盆栽に必要な費用は、全て伊羽家が負担しているのか?」

「そうだ。もっとも、裕福な武家や商家に売り歩いた金も使っているがね。
円士郎様のお父上、結城晴蔵様のように、私の考えに期待し、賛同して金魚を買って下さる方もいる。

まあ、今のところは失敗で消えていった金子のほうが多いが、伊羽家の家禄からだ。家中の金は使っていない」


私は返す言葉もなかった。

彼の考えや言葉はまさに正論で、恥ずかしさで頬に朱が上るのを覚えた。
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