オフィスレディの裏の顔
食事中はおじさまたちの仕事の話に女の子たちが耳を傾けうなずいてることが多かった。私は1人夜景をみながら他のことを考えていた。こんな素敵な場所で、高級料理を頂ける人がいる。一方で少ないお給料で切り詰めて暮らしている人は、一生こんな場所にはこれないんだろうなと。今までこんな風に考えることはなかったのに、派遣を始めてからは贅沢な暮らしと疎遠してしまっていたので、貧富の差についてときおり考えることがあった。

「水沢さんは何をされてるのですか?」

会話に入ってきていない私に気を使ってくれたのは、目の前の席の食品会社の社長さんだった。派遣で働いてることを話すと、なんとうちのクライアントだという。

「まずいな~。悪いことはできないね。」

「でも私は派遣ですから・・・」

そうこう話していると、紀香さんが会話に参加してきた。

「美鈴ちゃんは、シンガーソングライターを目指してたんですよ。真面目に働くと言ってOLになっちゃったけど、スポンサーになってあげてくださいよ~。」

「ほぉ~。曲を作れるなんてすごいね!」

「レースクィーンも経験したことがあるの。私のイチオシなの。」

会話のやりとりで、ようやく私は今日の会の意味が、スポンサー探しは冗談じゃないことがわかった。女の子側はスポンサー探し、おじさまたちは愛人を見つける会なのだ。そう気づいたとき、私は目の前のおじさまたちを見比べてしまった。どの殿方なら生理的に大丈夫?そう自分に問いたけど、せっかく真面目にOLに転職して、学生だけど彼氏もいて・・・今更夢復活のために愛人なんてやっぱり無理だと思った。でも紀香姉さんはやっぱりすごかった。

「私に2000万投資してくださいよ~。」

紀香姉さんの勢い、女のプライド、それだけの価値があると思わせる自信たっぷりな態度に、社長さんたちは提示額に引くことなく魅了されていた。

その後私は社長さんたちと会うことはなかったが、まもなくして紀香さんはニューヨークに留学に行ってしまった。どちらの社長さんがスポンサーになったんだろう?

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