お家に帰ろう。
「ただいま。」


そう言って、市川も水槽を覗き込んだ。


二人の並んだ顔が、ガラスに影を映している。


チラッと市川の方を見てみると、水温をチェックする横顔があった。


「魚じゃ何も言ってくれないね。」

「あ、俺、言っちゃってた?」

「はっきりと。誰もいないの?」

「昼間はね。」

「…」

「だから犬とかは飼えないんだ。淋しがるだろ?」

「そっか。」

「…」

「この子は淋しくないのかな?こんな広い水槽に一匹で…」

「だって喰っちゃうんだもん。」

「あ、あははは。」

「全然ちっちゃかった頃にさ、“友達を”と思って、他の魚も一緒に入れてやったんだ。」

「え!そしたら?」

「聞きたい?」

「やっぱイーや。」

「…魚にも感情ってあるのかな?」

「…さあ?」

「…でもさ、鮭の一生とかの番組観るとさ、つがいのさ…」

「ん?」

「なんでもない。」

「…あ。」

「なんか飲む?」


市川は、その場からはなれた。


「あ、いーよ。いらない。景色だけ見たら帰るよ。」

「…なんで?…まだいーじゃん。」
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