お家に帰ろう。
部屋に戻った明は、パソコンの前に座り電源を入れる。

そして、
たちあがりを待つ、ほんの数秒の間で、
市川の家でのことが思い出されていた。


「もしかして…哲司?」


それは市川の言葉だった。


アロワナの目から隠れた二人は、互いの気持ちを確かめ会うよう、キスをした。

それが次第に…
明の心のわだかまりを解く鍵となったのだ。


“何の躊躇いもなく”と言えば嘘になる。



市川に触れられるのは嫌ではなかった。


彼の腕の中で温もりを感じた時、明も彼を求めていた。


ならばそれまで、何のために警戒態勢をあらわにしてきたのか?


何かを吹っ切ったかのように
明は彼を受けいれた…。



(これで良いんだ…良かったんだ。)


彼のベッドで横になりながら、
そう実感していた。


と、その時…


「違かったんだね。」

「え?」

「いや、別に、そんなことは、どーだってイーんだ。」


彼が明を見つめる、その目は、
真剣そのものだった。



「ただ…その相手って…」

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