臆病者の逃走劇
「わ……」
恋愛経験ゼロな私は、もちろんこんな甘い時間を過ごしたことなんてなくて。
心臓が破裂しそうくらいに高鳴って、頭がパニックになってしまいそうだと思った。
そんな余裕のない私に気付いたのか、東条くんは眉を下げて笑った。
「こんくらいで精一杯かよ…そんなんで大丈夫か?紗菜」
さっ…!?
名前を呼ばれただけなのに、顔がやばいくらい熱くなる。
そんな私に、追い討ちをかける東条くん。
「だ、大丈夫って…?」
「俺キスしてぇんだけど」
「き……っ」
思わず固まる、私。
そんな私に東条くんはニッと意地悪そうな笑みを浮かべて。
「言っとくけど、拒否権ねぇから」
そう言って、私の腰をぐいっと引き寄せた。