臆病者の逃走劇
最初は触れるだけのキス。
唇を少しだけ離して、私は止めていた息を吐き出して、それを見て東条くんが笑って。
そしてまた唇を塞がれる。
今度は、最初よりも熱いキス。
何度も角度をかえて、私の唇をまるで貪るように食らった。
「ん、…はっ…」
ほとんど無意識に、甘い吐息が漏れた。
なにもかもが、すごく甘い。
熱くて、熱くて、とろけちゃいそうなくらい甘い。
どれくらいそうしていただろう。
たぶんそんなに長くはなかったけど、すごく長く感じた。
我慢できなくなって、腕に力をこめてこれ以上は無理だと訴えた私に、東条くんはすぐに気付いてくれた。
「…悪ぃ、抑えきかなくて」
「ううん……ご、めん…私慣れてなくて…」
「慣れてたら困るっつの」
申し訳なくて俯いた私に、東条くんはそう言って笑った。