臆病者の逃走劇
昔話
ずっと前、1年生のある冬の日の夕方のこと。
本を返そうと図書室に行くと、たまたま彼が一人でいて、しかも眠っていた。
図書委員でもあった私はついでに図書室の戸締りも頼まれていたから、すごく困ったんだよね。
当時、私は人気者の王子さまである彼が苦手だった。
私とあまりにも差がありすぎたし、私は彼を知っているけど彼は私を知らない。
そんな現実がお前はちっぽけなんだと私を責めているように感じられたから。
だから私は、彼が苦手だった。
…だけど戸締りは任されていることなのだ。
起こさずにほっぽって帰るわけにはいかない。
持っていた数冊の本をもとの場所に返して、チェックをつけて、私は彼の近くへ寄った。
そして思わず息を呑む。
(綺麗……)
なんて綺麗なんだろうと、思った。
その寝顔は女の私なんかよりきっとはるかに綺麗なもので。
つい、見とれてしまった。