【件名:ゴール裏にいます】
暗い寝室の電灯を手探りで点けようとして何かに足がぶつかった。

(ってぇ・・何だよ・・)

ようやく点けた電灯の明かりに照らされたのは沙希ちゃんが持ち込んできた段ボールだった。これをこのままにしていては彼女も躓くに違いない。僕は部屋の角に段ボールを移動させようと、その一つを持ち上げて考えた。

(何が入っているんだろう?)

今持ち上げている箱は衣類だろうが、さっき足にぶつけた箱はやけに重量感が感じられた。
窓際のオーディオセットの前に持っていた段ボールを置き、残りの二つも移動させた。

(本だな・・)

本当に一人で運んできたのか疑いたくなるような重さの段ボールの中身は多分本だ。それもかなりの量があると思えた。

(本棚も買わなきゃ・・)

そう言えば会社の通路に置いてある段ボールには何が入っているのだろう。いつも原田社長が躓く段ボール。一度片付けようと進言して答えが貰えなかった段ボールの中身に僕の思いを馳せた。



三つの段ボールをオーディオセットの前に重ね上げ、母親の写真からベットが見えないようにした。何かを考えてそうした訳ではないが、自然とそうなったんだ。

それから、ベットの上に置いてあった二つのバッグを床に下ろし、今日の寝床の確保ができた。

後は沙希ちゃんがお風呂から上がって来るのを待つだけだ。



浴室の扉が開く音がしてパタパタと小走りに駆け寄って来る足音がしたかと思うと沙希ちゃんはバスタオルを身体に巻いたままの姿で現れた。

(そんなに急がなくても)

僕の気持ちとは裏腹に、沙希ちゃんはいつも使っている自分のバッグを引ったくるようにして再び浴室の方へ取って返して行った。

(?)

ちょっとしてドライヤーで髪を乾かす音がし、その数分後に沙希ちゃんは寝室へ帰って来た。
意外にもパジャマをきちんと着た彼女は入口に立ったまま僕の顔をじっと見詰めていた。

「どうしたんですか?そんな所に突っ立って」

「うん。・・ごめん」

「何が?」

「始まっちゃった・・アレ・・」

「アレ?」

「そう、アレ・・」

「ああ、アレね」

「ほんとにごめんね」





「えぇぇ〜?マジでぇ?」

僕の下半身から力が抜けていった。

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