【件名:ゴール裏にいます】

「ほんとにいいの?」

暗くした寝室のベットの上で僕の左肩に頭を乗せて寝ている彼女がさっきから幾度となく聞いてくる。

「大丈夫ですよ、それより寝ましょう。明日も仕事なんだし」

「でも・・あたしだけ悪いし・・」

「あたしだけって?」

「・・あたしだけスッキリして悪いなぁ、って」

「スッキリしました?」

「うん、したよぉ。頭の中が真っ白になって、いっちゃったって感じがした・・初めて・・」

「初めて・・だった?」

「そうだよ。だって勇次くんが初めての人だし・・」

「え!」

「何びっくりしてんのよ!そりゃ痛くもなかったし、出血もしなかったけど、激しい運動をしていた人にはそんな事もあるんだから・・」

「僕はてっきり・・」

「あたしが経験済みだと思ってた?」

「だって、色々詳しいような感じでしたよ?」

「色々詳しいって何よ。人を淫乱みたいに言わないでよね」

「そうじゃないですけど、じゃあ何で・・」

「あたし本好きでしょ?・・あの段ボールの中身全部が官能小説なんだよ?」

「え?」

「一つは冬物の洋服なんだけど、残りの二つはそう。・・お父さんの物なんだけどね。お父さんが死んじゃって、整理してたら出てきたの。お母さんも知らなかったみたい、こんなにいっぱい読んでたなんて・・」

「それで?沙希ちゃんは全部読んだんですか?」

「読んだ。あたし活字がないと生きてゆけないからね」



僕は沙希ちゃんのあの時に発する官能小説ばりの台詞を思い出していた。

(そうだったのか・・)



「あと、勇次くん・・」

「はい?」

「本と勇次くんがなかったら生きてゆけない・・」

「沙希・・」

「なあに?」

「わかりましたから、その、手で摩(さす)るの止めてくれません?」

「ふふっ、でももうこんなだよ?」

「あーっ!握らない!」

「かわいそう・・痛くないの?こんなになって」

「痛くは無いですけど、そんな事されてちゃ眠れませんよ」

「だからスッキリさせてあげるって」

「またそんな素人っぽくない事言って・・」

「ほらほら・・どうされたいんだい?」

彼女が笑いながら言った。

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