【件名:ゴール裏にいます】

「そう言えば最近野良さん見ませんね?」

「勇次さんに言って無かったですか?、野良さん沖縄に出張です」

水曜日。出社した僕と綾蓮さんは原田社長が降りてくるまでの間、雑談をしていた。

「沖縄かぁ・・まだ泳げたりしますかね?あ、そうだ、綾蓮さん。あの段ボールなんですが中に何か入ってるんですか?」

「気になる?」

「はい。あんな通路に置いてて誰かに持って行かれてしまうんじゃないかって。結構重そうですよね?」

「あんな物持って行ったところで何の価値も無いわよ。そんなに気になるなら社長に直接聞いてみたらいいわ」

「それが、何か聞き辛いんですよねぇ。何でだろう?」



「おはよう」

「おはようございます」

(それに千尋ちゃんと一緒の時は躓かないんだよな・・)

原田社長と一緒に現れた千尋ちゃんは今日も絵本を小脇に抱えてニコニコしていた。

(段ボールの中身・・絵本かなぁ?)



「勇次くん。今日の予定は?」

そう言われて僕は黒亶の机の前まで進み出た。

「午前中にB社に入れる予定の三名との面接があります。面接と言うか顔合わせですが」

「入社日明日だったわよね?午後は?」

「午後は特に・・求人情報誌の突電くらいですが」

「突電?それなに?」

「突撃電話訪問です・・自分でそう言ってるだけですが・・」

千尋ちゃんが受話器を持つ振りをしてペコペコと頭を下げる真似をしている。

(人間観察の得意な子供らいしな・・)

ちらりと千尋ちゃんを見た社長は笑いながら、

「それで突電の成果はあるの?」

「全くありません!『H・O・S』って言っただけで話も聞いてもらえませんから」

「そう。何とかしなきゃね。あ、それから今日の退社後の予定はある?」

「いえ、別に。アパートに帰るだけですけど」

「お願いがあるんだけど。今日の夕方、少しの間千尋の面倒頼めないかしら?お酒の席に顔出さなきゃいけないの、あいにく義父も義母も旅行に行ってて。いつもなら綾蓮に上で相手して貰ってたんだけど、今日に限って用事があるらしいわ」

綾蓮さんの方をちらりと見たが、聞こえてないのか、パソコンに向かったままピクリとも動かなかった。

「・・良いですけど」

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