【件名:ゴール裏にいます】

「今回は勇次さんからのお誘いとは言え、原田社長と一緒に仕事が出来るのはとても光栄です。よろしくお願いします。出来れば今後もずっと」

真剣な眼差しで原田社長を一直線に見る篠原さんは顔を強張らせながら喋っていた。

「篠原さん、あなたには勇次くんと一緒で新しい風を我社に吹かせてくれる事を期待してるわ。お互いにがんばりましょう」

「はい!ありがとうございます。お時間取らせて申し訳ありませんでした。失礼します」




僕は篠原さんと一緒に外に出たところで聞いてみた。

「篠原さん、原田社長ってそんなに凄い人なんですか?」

「呆れた・・勇次くん何も知らないのね。あの原田真理さんって、ハーバード出て大手銀行でバリバリのキャリアだったのよ?気の早い経済誌には将来の頭取候補とまで書かれていたんだから」

「え〜?そんな人が何で・・」

「知らないわよ。私も今日初めて顔見て気付いたんだから。あの人と仕事がしたくて、苦労して銀行に就職した人が辞めてここで派遣してるって噂もあるくらいよ。さっきの二人が話していたもの。何でも良いから働きたかったって」

「そ、そんなに凄い人なんですか・・」

「私にとってはラッキーだったわ。勇次くん!がんばろうね!」

篠原さんは僕の手を握り、ブンブンと振り回した後で車に乗り込み帰って行った。



僕は会社の外から磨りガラス越しに原田社長の影を見ていた。



午後3時半に千尋ちゃんの乗った園児バスが会社の前に到着し、僕が迎えに出た。

「お帰りなさい。幼稚園は楽しかったですか?」

僕の問い掛けにウンウンと頷く千尋ちゃんと園児バスを見送った。

千尋ちゃんは事務所の中に入ると「ただいま」の代わりに手を振り、社長と綾蓮さんに挨拶をする。

「お帰りなさい」

「お帰り千尋。――ちょっと席外すわね、電話があったら上に回してちょうだいね」

そう言って社長と千尋ちゃんは左手のドアから事務所を出て行く。

(忙しい身でありながら母子のスキンシップは忘れていない。今も部屋の中では母親に戻っているんだろうな、社長・・)




「綾蓮さん、この会社って原田社長の旦那さんが創ったんでしたよね?」

「そうよ。どうかした?」

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