【件名:ゴール裏にいます】

「いや、この会社を創る前は何をしていたのかなぁ、って。旦那さん」

「那比嘉グループにいたわ」

「え?」

「那比嘉グループの東京支社にいたのよ。那比嘉道三の片腕とまで言われた人だったわ。それと同時に彼女、いえ原田社長のボディガードも兼務で東京に支社を創ったのよ。道三にとっては娘を取られた事と裏切られた気持ちでいっぱいだったでしょうね」

「那比嘉道三にはもう二人子供がいますよね?」

「後妻の連れ子の事でしょ?原田社長のお母さまと離婚した後に那比嘉に取り入った水商売の女の連れ子よ。道三のおかげで都町に何軒ものお店を出しているみたいね」

「じゃあ、全くの他人なんだ・・」

「誰が?」

「以前僕が勤めていか会社のアルバイトの女性ですけど。弟は旬君って言いましたか」

「原田社長とは全く縁が無い二人ね。確か面識も無いはずだわ」

「で?原田社長の本当のお母さんは?」

「さあ?道三と離婚した後に田舎にでも引っ込んだんじゃないかしら?社長とは連絡を取り合ってたみたいだけど、道三には知らされて無かったみたいね」

「そうですか、複雑なんですね、いろいろと・・」

「あなたが気にする事では無いわ。他に考える事はないわけ?」

「あ、いや・・すいませんでした・・ちょっと気になっちゃって」

(と、なると原田社長は一人っ子なわけだ。一人しかいない子供を何でお母さんは置いて出て行っちゃっただろう?)



「あの〜、綾蓮さん」

「何よ。まだ考えてるの?」

「はい。最後に一つだけ。何で原田社長のお母さんは道三の所に社長を残して出て行っちゃったんでしょうね?」

「そんな事も想像出来ないの?まったく・・。そんなの道三の元に居れば良い教育が受けられるからに決まっているじゃない。そのおかげで社長は日本一の大学に行けて、更にハーバードまで首席で卒業したのよ。全てはお母さまの愛の力だわ。私はそう思っている」

「はあ・・それで――」

言い掛けた言葉に背を向け、綾蓮さんは片手を振った。
彼女流の「話はおしまい」の合図だ。



(ふー。何か凄い人生を歩いているんだな、社長って。それに比べて僕の平凡な人生って・・いやいや、平凡こそ最大の幸せじゃないか!ビバ!平凡!)

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