【件名:ゴール裏にいます】
午後5時半になって原田社長と千尋ちゃんが事務所に帰って来た。
原田社長はシックな黒いドレスに身を包んで。
「綾蓮、ハイヤー呼んで。それから勇次くん、千尋をよろしくね。何かあったら携帯に連絡してちょうだい。電源はONにしておくわ」
「パーティーですか?」
「そうよ。この時期は上半期の決算とかあってやたら忙しいのに、やんなっちゃうわ。取引先でなければ断るところなのに」
「とても綺麗ですよ。怒ったら台なしです」
「あら?お世辞も言えるようになったの?成長したわねぇ」
「お世辞なんてとんでもないです。本心ですよ!」
「ふふっ、ありがとう。私が出たら二人共あがって良いわよ。お疲れさま」
ちょうどその時に黒塗りのハイヤーが会社の前に到着した。
「じゃあ行ってくるわ。千尋、いい子にしててよ」
社長はカウンターを回り事務所を出て行った。
「じゃあ綾蓮さん、帰りますか?」
「私は6時まではここにいるわ。そうしないと気持ち悪いのよ」
「そう言えば用事ってなんです?」
「それは最もあなたには関係ないわね」
「はい、すいませんでした・・じゃあ僕はこれで・・」
「千尋ちゃん、9時には寝ると思うから、それまでにはお風呂に入れてあげてね」
「はい。綾蓮さんも千尋ちゃんと一緒にお風呂・・」
背を向け手を振る彼女。
「じ、じゃあお疲れ様でした」
僕のステーションワゴンにはチャイルドシート等はあるわけない。千尋ちゃんを後部座席に荷物と共に乗せ、アパートへと走らせた。
千尋ちゃんは大人しく座っている。本当に聞き分けの良い子供だ。
沙希ちゃんにはあらかじめメールをしておいた。いきなり僕の部屋に子供がいては驚くだろうし、夕飯の買い物をしてくる可能性があったからだ。
今日は外食。しかも経費で落としてくれるらしい。
メールにそう続けた。
『アパートに先に帰った方が下の駐車場を使う』
沙希ちゃんと決めた事だ。そうしとかないと気を使って遠い方の駐車場に回ったらライフがあったなんて事があり、二度手間だからだ。
今日は僕が先に帰り着いたようだった。