【件名:ゴール裏にいます】
「どうかしました?」
「うん・・ベターな絵本ばかり借りて来たんだけど、千尋ちゃんほとんど読んだ事あるって。あたし嘗(な)めてた、この子の絵本好き・・今度はマニアックなの借りて来るからね」
「ちょ、何変なところで意地張ってんです?沙希ちゃん着替えないんですか?そろそろ行きましょうよ」
「あ、ちょっとトイレに行ってから着替える。千尋ちゃん後でね」
僕は沙希ちゃんと入れ代わるようにして千尋ちゃんの隣に座った。
「面白いお姉ちゃんでしょ?仲良くなれそうですか?」
千尋ちゃんはウンと頷(うなず)いた後で、右手の親指と左手の小指を合わせて僕に見せた。
「それ何?恋人同士かって事?」
再びウンと頷き僕の答えを待っている様子の千尋ちゃん。
「そうですよ。沙希ちゃんと僕は今一緒に暮らしています。結婚するかも知れないです」
千尋ちゃんはニコッと笑い、ウンウンと今度は二回頷いた。
(良かった・・とりあえず小さな先輩には反対されなかったみたいだ)
「お待たせ。行こうか」
「千尋ちゃん、オムライス食べに行きますよ!」
その言葉を待ってました、とばかりに勢い良く立ち上がった千尋ちゃんの目はキラキラと輝いて見えた。
下の駐車場でステーションワゴンのロックを外した僕に沙希ちゃんは言った。
「すぐ近くなんだから歩きましょ?」
「だって千尋ちゃん・・」
「ダメだよ、甘やかしちゃ。歩けるよね?千尋ちゃん!」
ウンと頷く千尋ちゃん。
「ほら、歩きましょ。だいたい千尋ちゃんは病気じゃ無いんだから普通の子供と同じに扱わないと失礼だよ。分かった?勇次くん!」
「はい。そんなつもりでは無かったんですが、沙希ちゃんの言う通りだと思います」
「よろしい!では参ろうか。かっかっかっ・・」
(変なお姉ちゃんでしょ?)
僕は千尋ちゃんに耳打ちをした。
大分川の土手の上を千尋ちゃんを真ん中に三人で手を繋いで歩いた。
日は傾き、川面を秋の風が撫でて行く。
目的地は『Restaurant midoriの鳥』。
三人でゆっくりゆっくり歩いて行った。