スカーレット

 先生はカルテに貼ってある紙に目を通しながら二回頷いた。

「ええ、救急病院のほうからうかがってます」

 驚いた。

 病院同士で連携プレーをすることもあるのか。

 私が今どのような状態か、説明しなくてもわかっている様子だ。

「それなら話が早いです。以前の私のこと、教えていただきたいんです」

 彼はカルテを閉じて私のほうを向いた。

「ここは精神科です。お気づきかもしれませんが、事故の前、あなたは軽度の精神病を患っていました」

「軽度の精神病?」

 そんなの、全然気付いていなかったんですけど。

 症状の想像がつかず、漠然とした不安がよぎる。

「はい。うつ病、ですね。その影響で特に不眠に悩まされておられました」

「なるほど、それで睡眠薬……」

 医師が頷く。

 心を病んでいた事実はややショックだった。

 自分のどこが不幸だったのだろうと思っていたが、そうまでさせる何かがあったことは、これで確実なものになったのだ。

「私に、一体何があったんですか?」


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