桃太郎【Gulen】


 お互いの剣技が飛ぶ。


 カキンという金属音が二人の間に鳴り響いた。


 鍔迫り合いは、剣技の中では邪道の一つ。


 しかし、せねばならぬその太刀を交わせぬほどにオロチの剣は早かったのだ。


 だが、それも一瞬。


 オロチは力勝負を挑もうとはせずに、すぐに後退したかと思うと、姿勢を落とす。


 下から来ると思い、距離をとったつもりが、甘かった。


 オロチはその低い姿勢からいきなり飛び上がったのだ。


 上を向けば、太陽光が邪魔をして目がくらむ。


 そのような子供じみた業にかかるほどに桃太郎も馬鹿ではない。


 跳躍したオロチを避けるためには下を見よ。


 桃太郎は、下に映るオロチの影を見て、転がるように避ける。


 それでも、オロチの太刀は桃太郎の頭上一寸のところまで届いていた。


「ほぉ、やるな。」


 ニヤリと笑うヤマタノオロチ。


「はぁはぁ・・・。」


 それに対して、桃太郎は息を切らし、避けるのがやっとだった。


 桃太郎の剣技は言ってしまえば、父譲りのスピードを生かした技。


 しかし、桃太郎に剣を教えたのがスサノオウならば、そのスサノオウに剣を教えたのは、相手のヤマタノオロチなのだ。


 実力の差は歴然。


 それでもひくわけには行かぬ!


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