かえりみち

********

手術中のランプはまだ、ついたままだ。

由紀子は手術室の前のソファに深く腰掛けていた。
思い切り泣いた後のどっとした疲れが、由紀子を包み込んでいる。

卓也は、背中合わせに置かれたソファに背中合わせに座っている。
後ろ向きなのでよく見えないけど、さっきから、身動き一つしない。

何を考えてるのかしら、この子は今。

高ぶった感情が落ち着いていくのと同時に、今度は恥ずかしさがこみ上げてきた。

あぁ、私ってば。
またやっちゃった。
とんだヒステリー女だと思ってるだろう。
顔を合わせば、泣きわめいたり、ひっぱたいたり。

でも・・・

由紀子が顔を上げた。

よかった。生きててくれて。
おかげで、あなたに謝れる。

「・・・昨日は、ごめんね」

「・・・」
卓也が首を横に振ったのが、見えなかったけど分かった。



< 116 / 205 >

この作品をシェア

pagetop