かえりみち

「わたし、時々ああなっちゃうの。自分が歩にしたこと思い出すと、たまらなくなっちゃって」

由紀子は薄く微笑んだ。
「あなた、災難よね」

突然、他人の家庭の問題に巻き込まれるわ、ただ実家に帰っただけなのにこんなに心配されちゃって、いきなりひっぱたかれるわ。
ほんと、あなたにとってはとんだ災難よね。
歩に似てるっていうだけで。

「…そうやってずっと、…苦しみ続けるつもりですか。」
卓也が突然、口を開いたので、由紀子は少し驚いた。

少しの沈黙の後、由紀子は答えた。
答えというよりも、覚悟に近かった。
「…そう。たった8歳の子供を、自殺に追いつめるほど苦しめちゃったんだもの、当然よ。これはあの子がわたしに出した、人生をかけた宿題なの。」

私があのとき歩に負わせた傷は、致命傷にはならなかった。
私はPTSDと診断されて、何の処罰も受けなかった。
でも・・・あの子は心に、間違いなく致命傷を負ったのよ。
あの子にとっては、どんな言い訳も通用しない。
あのとき。
私があの花瓶を振り下ろして、あの子を殺したの。

一生をかけて、償わなければならないの。

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