かえりみち
幸一との面会が許されたのは、夜も更けて東の空が白みかけた頃だった。
薄暗い病室に通された由紀子と卓也は、幸一の変わり果てた姿に、しばし言葉を失った。
ベッドに横たわっている幸一は、毛布の外に出ているほぼ全ての部分に包帯やガーゼがあてられていた。
テーブルに置かれた、ひしゃげたメガネが、事故の衝撃を物語っている。
由紀子が、そっと幸一に歩み寄り、耳元でささやいた。
「あなた。」
ガーゼの向こうの頬が緩んだ。
「由紀子。…ごめんね、心配かけちゃった。」
静かだが、見た目よりもしっかりとした口調に、由紀子は少し安心した。
「卓也君、来てるわよ。」
幸一の声が上ずった。
「ほんと?」
由紀子が振り向いて、卓也を見る。
卓也は、病室の入り口に突っ立ったまま、一歩も先に進めなかった。
幸一の右肩に分厚く巻かれた包帯が何を意味するのか、頭の悪い卓也にもよく分かった。
肩の怪我は、チェリストにとっては命取りだ。
自分のせいで、また大きな不幸を一つ、増やしてしまった。
「卓也」
幸一が、卓也を呼んだ。