かえりみち
由紀子が卓也を促して、幸一の枕元に座らせた。

「卓也?そこにいるんだね。良かった…」

卓也は顔を上げられなかった。

「お前……歩なんだろ?」
そう言った幸一の、必死の眼差しが心に蘇る。
「親は、子供のことを忘れることなんかできないんだよ」
そう言ったときの、悲しそうな微笑も。

幸一が何を求めて、夜中自分を探し回ったのか。
それを知っているからこそ、卓也は幸一の顔を見られなかった。
自分は、幸一の願いをかなえることはできない。
僕は歩には、戻れない。

「…ごめんなさい。」

「顔をもっと近くに。よく見えないんだ」
無視したのか聞こえなかったのか、幸一は卓也の謝罪を聞き流した。

「メガネがないと、ほんとに全然見えないんだ」

卓也が仕方なく、顔を幸一の顔に近づけた。




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