かえりみち
幸一は、包帯を巻いた両腕を上げて、卓也の顔を両手ではさんだ。
包帯のざらりとした感触と、鼻を突く消毒の匂いが、卓也の胸をさらに締め付けた。
「本当に、ごめんなさい」
幸一は、二度目の謝罪も聞いていなかった。
「あぁ、ほんとに君だ」
幸一は嬉しそうに微笑んだ。
「君が死ぬ夢を見たんだ。怖かった…。無事なんだね…良かった、ほんとに良かった…」
うわ言のように、何度も繰り返した。
違う。
あなたは、歩の幻を見ているだけなんです。
あなたが探している歩は、もうどこにもいません。
探せば探すほど、あなたが不幸になるだけです。
卓也は、今自分が考えつく中で最も誠実な言葉を、幸一に伝えた。
それが、幸一にとって最も残酷な言葉であることも、分かっていたけれど。
これ以上の不幸をとどめるために、そうするしかなかった。
「島田さん。…僕は、歩じゃありません」
卓也の瞳から、冷たい涙が一筋こぼれた。
幸一が、卓也を見た。