かえりみち
幸一は、少し黙って卓也を見つめた。
それから、また微笑んで、
「分かってるよ。」
そう答えた。
その一言に、全てが込められていた。
島田さん。
あなたが夜通し探していたのは、
そして今、見つけて喜んでいるのは・・・
歩という名の少年でも、
卓也という名の青年でもない。
今、あなたの目の前で、息をしているこの「僕」だった。
包帯を越えて、幸一の手の温もりが卓也の頬に伝わってくる。
あたたかい-。
卓也の心を固めていた何かが、春の小川のように溶け出して流れていく。
もうそれを、心の中にとどめておくことはできなかった。
卓也は幸一の胸に顔をうずめて、子どものように泣きだした。