かえりみち

「・・・こうすると、いいんですか?」

卓也が由紀子の真似をして、タオルを引っ張った。

「そう・・・もっと、勢いよくね。パン!ってなるくらいに」

卓也がタオルをパン!と引っ張った。
「わぁ、ほんとだ!しわしわが取れた!」

「フ!」
由紀子が笑った。
子どもみたいね、こんなことで喜ぶなんて。

並んで洗濯物を干す二人。

「パン」
卓也が嬉しそうにタオルを引っ張る。

「パン」
由紀子も合わせてタオルを引っ張った。

日差しが温かくて、気持ちいい。
タオルもすぐに乾きそうだ。

「お母さんに習わなかった?」

「・・・僕は出来が悪いから、全然覚えなくて。母は苦労したと思います」

「そんなことないわよ。・・・ねぇ、葛西君のお母さんて、どんな人?」
一度、聞いてみたかった。
歩によく似たあなたを育てた、幸せ者がどんな人なのか。

卓也は、少し考えてから口を開いた。
「とてもきれいで、とても優しい人です」

「そう」
由紀子は微笑んだ。
そんな言葉を息子に言われたら、どんなに嬉しいことか。
「それ、お母さんに言ってあげてね。最高の褒め言葉よ」

「・・・今度、会いに行こうと思います。コンサート終わったら」

そうしてあげて。
いつか、私も会ってみたい。
とてもきれいで、とても優しい、あなたのお母さんに。

「あ!」
由紀子が突然すっとんきょうな声をあげたので、卓也が驚いた。

「それで思い出したけど、あなた、事故の後百合ちゃんにまだ会いに行ってないんですって?」

「え・・・」

「会いに行ってあげて。あと、私がやっておくから。ね?」


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