かえりみち

お見舞いの定番といえば、やはりお花だろう。
というか、他に思いつかない。
でも、ユリは花なんかもらって、果たして喜ぶだろうか。
女にしてはサバサバしてるからなぁ。

卓也はさっきからもう十回以上も、花屋の前を行ったりきたりしている。

しびれを切らした花屋の店員が、卓也に声をかけてきた。

「お客様、プレゼントですか?」

わ~、声かけられちゃった。
どどどどどうしよう。
「い、いえ、お見舞いですけど・・・」

「季節的に、チューリップとかガーベラなんかがお勧めですよ。ご予算は?」

「3千円」
・・・帰りのバス代、あるだろうか。

「3千円ですと、これくらいになりますね」
店員が、見本の花束を持ってきた。

かすみ草をベースに、ピンク色のチューリップが幸せそうに束ねられた花束。
「チューリップを減らして、ガーベラに変えることもできますよ」
店員がそばにあったガーベラの花を、花束に添えて見せた。

「・・・」
卓也の顔色が変わった。

・・・この花だ。
お母さんが好きって言った花。
脳裏に、ある風景が蘇る。
足元につぶれて落ちている花束。
その花束の中に、この花があった。
茎が折れて、花びらもちぎれてた。

「すみません。やっぱり、やめます」
卓也は足早に花屋を後にした。




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