かえりみち
広い部屋。
前は応接間だったところだ。
その名残に、真ん中にソファと広いテーブルが置かれている。
しかし・・・
その周りにはベッド。
本棚。
タンス。
パソコンデスク。
洗濯物干しのスタンド。
生活に必要な道具が一式揃っているが、部屋そのものが持つ風格には全くなじんでいない。
卓也はその異質な空間に驚くこともなく、ソファに腰を下ろした。
その卓也の頭に、バサッとバスタオルが投げかけられた。
「濡れた服のまま座るな。ソファが傷む」
バスタオルをかぶった卓也の頭は、じっと下を向いたまま動かない。
「お前・・・」
正卓は、テーブルを挟んで向かい側にあるパソコンデスクに向かった。
途中、卓也には見られたくないものをさりげなく片付け、それから、大きなため息とともに、チェアに腰を沈めた。
「もうここには戻ってくるなと言ったはずだぞ」
「・・・」
「・・・それも、もう3年前の話だ。お前、この3年一体何やってたんだ?」
「高伊の楽器工房とか、音楽院にいた。・・・成り行きで」
別に、直接的な答えを求めて聞いたんじゃない。
「・・・帰らなかったのか。あそこに」
「帰るつもりなんて、最初からなかったよ?ただ・・・あの人があまり悲しそうな顔してたから、ちょっと・・・魔がさしちゃった。」
卓也が自嘲した。
「バカだね。こうなることは、分かってたのに」
卓也はぽつり、ぽつりと雫が落ちるように話し続ける。
「…いなきゃいないで、悲しまれる。いたらいたで、苦しまれる。どうすればいいの?」
無言のまま、正卓が立ち上がり、奥のドアに向かった。
卓也がすがりつくように顔をあげた。
「ねぇ、教えてよ・・・」
「あぁ、そりゃ難しい質問だな。そういうのはヤフーで調べるといい」