Memory's Piece

爽やかな酸味とほのかな甘さが美味しくて、あんなに悩んだことも忘れて「やっぱりオレンジジュースだよなぁ・・・」なんて呟きながら長蛇の列と化した自販機の前からスルリと抜けだす。

人波をかき分けるようにして進みながらもとの場所に戻りつつ「桃亜姉~、ジュース買ってきたよ~」なんて桃亜姉に手を振る予定だった。


・・・・・のに。


桃亜姉が座っていたベンチの周りには何故か人だかりが出来ていて上げかけた右手をボクは下ろすこととなってしまった。

人だかり・・・というにはちょっと人数が少ない気もしたけど、まぁ、そこらへんは気にしない。

何故か全て男な人だかりは、桃亜姉に近づくにはちょっと・・・・いや、かなり邪魔で、ボクはヒョイッと大きく跳躍した。

避けて通るよりも跳びこえる方が速そうだと思っての判断だったんだけど、何故だか周りがザワッと揺れた。


「みーちゃん・・・」


「桃亜姉、どうしたの??」


ストンッとベンチに着地すると、見知らぬ男に手首を握られて立たされる体勢になっていた桃亜姉が、あからさまにホッとした声でボクの名前を呼ぶ。

不安げに揺れる夕焼け色の瞳に「大丈夫?」と尋ねて、ボクは強引に男の手を振り払った。

汚い手でいつまでも桃亜姉に触れていてほしくなかったからだ。


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